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Vol.48
2023年7月28日
福島県飯舘村長泥地区では、除染で出た土を再生資材化して農地を盛土する実証事業が行われています。環境再生レポート前号では、水田試験エリアで5月に行われた田植えの様子をお伝えしました(Vol.47 田植えでつなぐ復興への思い-飯舘村長泥地区の農の再生に向けて-)。7月5日、稲が順調に生育するなか、環境省の依頼で専門家の方々による水生昆虫の生物多様性調査が行われました。今回は調査に同行して、田んぼの生きものを取材しました。
水田試験エリアでは、盛土した土壌の排水性などの機能を確認するための試験が行われています。ここには水稲栽培をはじめて3年目の田んぼと、Vol.47で紹介した今年から苗を植えた田んぼがあり、その両方で水生昆虫の調査をしました。
田んぼの水辺を採集網ですくい、パレットにあけてどんな生物がいるのか調べます。アメンボやコミズムシの幼虫など体長わずか数ミリの小さな水生昆虫が多く見られました。そのなかにトンボの幼虫のヤゴが何匹かいました。成虫に羽化すると羽になる部分が背中に見られ、あと1週間ほどで羽化するものもいました。
標高が約500メートルの準高冷地である長泥地区の水田試験エリアでは、この時期、平地より一足早くトンボが見られます。田んぼのまわりで赤とんぼの一種、アキアカネが飛び交っていました。みつけたヤゴはアキアカネの幼虫でした。羽化して間もないアキアカネは体の色が薄めですが、秋になり成熟するとオスは腹部が赤くなります。涼しい高地で夏を過ごし、秋にかけて平地におりるのだそうです。
田んぼをのぞくと、オタマジャクシや小さなアマガエルがあちこちにいました。足が生え始めたもの、成体になりかけのもの、成長の過程が一度に見られました。
水田試験1年目の田んぼに来ました。今年はじめて水を張り、苗を植えました。水田の機能比較の目的で、苗を植えている区画と、植えないで水を貯める(潅水)区画に仕切られています。
マツモムシ(松藻虫)という面白い水生昆虫をみつけました。腹を上に仰向けになり、足をオールのように使って水面を背泳ぎで進みます。小さいながら水面に落ちた虫やおたまじゃくしなどの生きものを捕食する肉食性のハンターです。針のような口に刺されると痛いので要注意。
潅水の区画では、シャジクモ(車軸藻)類の水草が辺り一帯に繁茂していました。池や沼に生息する一般的な水草の仲間ですが、最近ではなかなか見られなくなっているそうです。
水草に紛れて、茎と見間違えそうなミズカマキリもいました。カマキリとは違うカメムシ目の水生昆虫で、小さな幼虫もたくさんみつかりました。
田んぼ周辺では、アキアカネのほか、シオカラトンボやいろいろな種類のイトトンボが見られました。
水田試験エリア周辺の農地では、実証事業の一環で季節に応じた緑肥作物の花を栽培しています。さまざまな花が咲き、ミツバチやチョウが花の蜜を求め飛び交っていました。花は開花期の後、肥料として土壌にすき込まれます。
8月には出穂期を迎え、稲は晴れた日の午前中のわずかな時間に開花を終えます。田んぼの景色や生きものたちも季節とともに変化していきます。夏のにぎわいの後、秋には黄金色に実った稲穂と、赤とんぼを見るのが楽しみです。
環境再生プラザでは、今後も地域の環境再生について情報発信し、理解促進に取り組んでまいります。
◆ 飯舘村長泥地区環境再生事業見学会を開催しています
【開催予定日】
8/26(土)・9/25(月)・10/2(月)・10/28(土)・11/27(月)参加無料・要事前申し込み
詳細は、専用ホームページをご覧いただき、メールまたは電話でお申し込みください。
URL:https://www.jesconet.co.jp/interim_infocenter/observation_nagadoro.html