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Vol.47
2023年6月16日
飯舘村長泥地区では、村と地元の方々のご理解とご協力のもと、除染で出た土を再生利用して農地を造成する実証事業が進められています。福島県の阿武隈山系北東部の高原に位置する同地区では、一部が特定復興再生拠点区域*1として環境整備(除染やインフラ等の整備)が進められ、先月の5月1日、12年ぶりに避難指示が解除されました。5月23日にはこの場所にある水田試験エリアで水田の機能を確認するための苗の植付けが行われました。その様子をレポートします。
当日は気温10度と少し肌寒く、小雨の降る空模様となりましたが、栽培支援員として事業にご協力いただいている地元の方々や関係者が集まりました。植付けを行うのは、約16ヘクタールの環境再生事業エリアのうち、約2800平方メートルの区画です。農地は、除染で出た放射能濃度の低い土を再生資材化して盛土をし、その上に汚染されていない土で50センチメートルの覆土をしています。
10時30分、田植え機で植付けを開始。苗の品種は、福島県が開発した「里山のつぶ」です。低温に強く、県内の冷涼な中山間地域での栽培向けに開発され、程よい粘りや甘みが特徴です。五月雨のなか、共同作業で手際よく苗が田植え機にセットされ、植えられていきます。
田んぼの端では、手植えも行いました。地元の方々のご指導のもと、泥にはまった長靴の抜き方など叱咤激励されつつ、環境省職員や関係者が横一列に並んで植付けをしていきます。真剣な表情から、作業が進むにつれて笑みがこぼれ、和やかな雰囲気となりました。
12時過ぎ、初々しい緑の苗が一面に植えられました。この水田試験は、盛土した土壌の透水性や排水性などの機能を確認するための試験という位置づけであり、刈り取られたお米は残念ながら食べることはできませんが、今後、順調に苗が育ち実証事業の成果へとつながることが期待されます。
作業を終え、地元住民で植付けのご指導をいただいた鴫原良友さんに復興への思いを伺いました。「地元で田植えをして、秋にも実って、来年、再来年も、こういうふうに耕作をして。みんなで癒やされるような気持ち、本当にありがたいなっていう感謝の気持ちでいます。みんなに田植えや農作業に協力してもらって、復興が毎日進んでいるなという気がしている。みんなに安心安全を広げていってもらいたい。わかってもらいたい。秋に実ったところを、食べられないんだけど、また見に来てほしいね。来て、見てもらうことで、すごく私たちらは一生懸命やったんだなって励みになる」。
農村部では「結い(ゆい)」とよばれる精神で、田植えの時には家族総出で住民同士が協力し合って作業を行い、終わった後には神様や関係者に感謝する「早苗饗(さなぶり)」と言われる行事をして親睦を深めたそうです。今後、地域の復興再生とともに、こうした伝統もまた再開されることを祈念したいです。
作業の間、田んぼの水面にはアメンボがスイスイと泳ぎ、ツバメやイワツバメが飛び交い、周辺からはウグイスやホオジロ、森からはカッコウやクロツグミなどのさえずりも聞こえました。近くではこれからの季節、モリアオガエルの卵塊がみられるそうです。
環境再生プラザでは、今後も様々な機会を通して、地域の環境再生の情報を発信し、理解促進に取り組んでまいります。
◆ 飯舘村長泥地区環境再生事業見学会を開催しています
開催予定日:6/24(土)、7/24(月)、8/26(土)参加無料・要事前申し込み
詳細は、専用ホームページをご覧いただき、メールまたは電話でお申し込みください。
URL:https://www.jesconet.co.jp/interim_infocenter/observation_nagadoro.html
*1 特定復興再生拠点区域:将来にわたって居住を制限するとされてきた帰還困難区域内に、避難指示を解除して居住を可能にする区域のことです。富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の6町村に設けられた同区域の避難指示は、今年5月の飯舘村長泥地区を最後にすべて解除されました。