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茨城県取手市のレポート

令和4年11月更新

茨城県取手市について

茨城県の南端に位置する取手市は、東京、成田、つくばを結ぶ三角形のほぼ中央に位置していることから交通の要となっている。平成27年3月に開業した上野東京ラインにより東京・品川までつながり、都内までは電車で約40分。首都圏の都市の中でも、交通の利便性と自然環境に恵まれた都市環境をもっている。
利根川とその支流である小貝川の二大河川が流れ、肥沃な土壌により、稲作をはじめとした農業も盛んで、「相馬二万石」と称される広大な穀倉地帯では、秋口になると黄金の稲穂が風になびく風景を見ることができる。
また、水資源が豊富であることから、大手ビール会社が国内最大の生産量を誇る工場を立地し、首都圏に向けて美味しいビールを届けている。その他にも日本を代表する複数のメーカーの生産拠点や事業所を擁し、産業面でも活発な経済活動が見られる。

除染実施計画に基づく除染措置完了
平成28年12月

取手という地名は、戦国時代に大鹿太郎左衛門(おおしかたろうざえもん)の砦があったことから、名付けられたといわれる。市内からは中妻貝塚や向山貝塚などの縄文時代の遺跡をはじめ、旧石器時代から奈良・平安時代にかけての遺跡も約90カ所発見されているほか、水戸街道に残る本陣建築では最古・最大の旧取手宿本陣染野家住宅もあり、古くから人々の往来で賑わっていたことが伺える。

ゼロカーボンシティの実現に向け「取手市気候非常事態」を宣言

近年、地球温暖化により、世界各地で様々な異常気象が引き起こされている。日本においてもこれまで経験したことがない猛暑や豪雨、大型台風、それらに伴う自然災害の発生など、気候変動によると思われる影響が全国各地で生じており、利根川、小貝川の流域を抱える取手市においても、自然災害は市民生活に多大な被害をもたらす極めて深刻な脅威となっている。

そのため市では、令和2年8月3日「気候非常事態宣言」を表明した。あわせて、2050年に温室効果ガスの排出量をゼロにする「ゼロカーボンシティ」を表明し、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めている。その取り組みの1つとして、毎年、8月に地球温暖化防止対策講座を開催し、市民への周知・啓発に努めている。

また取手市は、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐため、気候変動の「緩和」とそれに「適応」するまちづくりを次のとおり進めていく。

  1. 上記宣言に関する市民への普及啓発に努め、Refuse(不要なものは買わない・受け取らない)、Reduce(ごみを減らす)、Reuse(繰り返し使う)、Recycle(再生して利用する)の4Rと再生可能なエネルギーの推進。
  2. 2050年の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする取り組みの推進。
  3. 気候変動の適応策として風水害に強いまちづくりを目指す。
  4. 更なる気候変動対策について積極的に呼び掛け、同じ志を持つ方々と手を結び、広く連携していく。

アートと融合したまちづくり

こうした歴史的建造物の保存ばかりでなく、市では新しいアートによるまちづくりにも力を入れている。市内に東京藝術大学のキャンパスが設置されたことから、市と藝大との交流がスタート。藝大における優秀な美術作品に取手市長賞を授与し、市は作品の寄贈を受けるという制度が、平成4年度に始まった。以降まちを彩る美術作品が年々増えている。平成11年度には、市民と取手市、東京藝術大学の三者が共同で行う「取手アートプロジェクト(TAP=Toride Art Project)」が発足。TAPは、「アートのある団地」「半農半芸」など様々なプログラムを次々と展開し、アートプロジェクトがより生活に近く、「常にそこにある」ことを目指す文化創造の場づくりに、挑戦し続けている。

アート基調の連携はこれにとどまらない。平成18年度に、JR常磐線上野駅から取手駅までの4区4市、東日本旅客鉄道株式会社、東京藝術大学が連携してJOBANアートライン協議会を発足。沿線の活性化と交流人口増加を目指して活動を続けている。平成29年度には、東京藝術大学、東日本旅客鉄道株式会社、株式会社アトレ、市の四者が、取手地区の活性化を目的とした連携協定を締結。令和元年度には取手駅ビル内に「たいけん美じゅつ場VIVA」を開設し、市民に様々な過ごし方ができる居場所を提供するとともに、アートを介した新たなコミュニティの創造を図っている。

市域内では、落書きや張り紙の対策とアートをむすびつけた「壁画によるまちづくり」が、平成12年度に始まり、令和3年度までに18作品が完成。アートのまちを演出している。一方、美術分野に傾倒してきたアートによるまちづくりは、平成23年度から音楽分野にも展開し、取手音楽の日「取手ジャズフェスティバル」を継続して開催。取手市長賞も令和元年度から、音楽部門の優秀者にも授与することとしたなど、アートと融合したまちづくりは、常に発展し続けている。

取手アートプロジェクトとUR都市機構が共同で行った、「アートのある団地」事業の成果「IN MY GARDEN」。
戸頭団地の壁をキャンバスに見立て、生活空間にアートが出来上がった。

壁画によるまちづくりの一つとして取手市民会館外壁に描かれた壁画「調和する街、取手」。
市内にはこうした壁画が18点描かれ、まちを彩っているほか落書きがなくなるなど、防犯にも大きな役割を果たしている。

副市長をトップとする特別体制で除染措置に取り組む

こうした新たな町づくりに安心して取り組めるよう、市では東日本大震災に端を発した除染活動に尽力してきた。

平成23年8月に国が行った航空機モニタリング調査の結果、市内の約7割を占める地域で、空間線量率が毎時0.23µSv*を超えていることが確認された。市では同年10月に、副市長をトップとする「取手市放射能対策委員会」を設置し、対策に向けた体制を整え始めた。12月に放射性物質汚染対処特措法(特措法)による「汚染状況重点調査地域」に指定されたことを受け、平成24年4月には除染実施計画を策定した。
* µSv…マイクロシーベルト

市の除染に先駆け一部の学校・保育所では、PTAからの要望を受け、平成23年7〜9月に市、教職員、PTA等のボランティアの協働作業で暫定的な除染活動が行われていた。市としても、平成23年12月に専門家(筑波大学 アイソトープ総合センター 松本教授)を招き、効果的な除染手法等を検討するために、5公園で除染の検証作業を実施した。その後、市内の放射線量の詳細を把握するために、GPSと連動した車載型放射線自動計測機で放射線量の分布状況を測定し、500メートルメッシュの平均空間放射線量を基準に除染対象区域を決定した。除染作業にあたっては、まずは子どもが安心して生活できる環境確保を最重要と考え、平成24年8月から特措法に基づく除染実施計画の対象区域の除染に取り組んだ。同年度中には、幼稚園、保育所、保育園、 小学校、中学校、高等学校、公園などの除染を終え、残りの公共施設も含め、翌25年度中に除染を完了した。

民有地における住宅地については、平成25年度半ばから取り組み始めた。約3万軒(※実際の調査対象軒数は28,481軒)の空間放射線量調査を効率的に実施するために除染対象地区を6地区にわけ、事前に各行政地区のコーディネーター的役割を担う市政協力員や自治会役員等を招き説明会を開催し、除染方法等について説明を行った。その後、住民の協力もあり、平成26年9月で住宅地除染事業が完了した。

こうして約2年間にわたる除染作業を経て、市内の平均空間線量率が毎時0.11µSvまで低減することが出来た。除染措置完了後の現在も、小中学校、幼稚園・保育所、公園などの子ども空間施設192カ所の放射線事後モニタリング測定を年1回実施している。

小貝川そばにある運動公園の桜。2015年に実施した市制施行45周年記念事業、
「太陽の美しいまち取手フォトコンテスト」で入選した市民によるワンショット。

利根川の河川敷を利用した取手緑地運動公園。広大な敷地では、さまざまなスポーツを楽しむことができる。

もともとは江戸時代に設けられた岡堰。ここに溜められた水が用水となり、相馬二万石と呼ばれる広大な新田が誕生した。

住民とのリスクコミュニケーション

住民とのコミュニケーションにおいては、何よりも不安の軽減に配慮した。平成23年12月に各行政地区に1台の簡易放射線量測定器を貸し出し、市民自らが測定できる体制を構築するとともに地域の放射線量を把握することで漠然とした不安の解消に努めた。
また、平成24年10月に、市の放射能対策をわかりやすくまとめた冊子型のカラーパンフレットを作成し、広報誌とともに全戸配布。その他にも、除染の対象地区や除染手法、除染作業の進捗状況、除染結果等について臨時広報紙を配布する等市民への情報提供を積極的に行った。

また、放射線の正しい知識を広めるため、外部の専門家を招いて、放射線による健康影響に関する住民セミナーを開いた。希望する住民には、測定器の貸し出しや家庭菜園でとれた野菜の測定も継続して行っている。

除染実施計画に基づく除染は平成28年12月にすべて完了し、安全対策は一段落したが、住民のわずかな不安にも対応できるよう、市では万全の対策を継続していく予定だ。

スマートウェルネスと起業促進で魅力あふれる地域へ

除染以外の政策面として現在力を入れているのが、子どもから高齢者までが地域で元気に暮らせる社会を実現する「スマートウェルネスとりで」の推進である。
スマートウェルネスとは身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、安心安全で豊かに生活を送れることを指している。
取手市では「健康づくり」と「幸せづくり」の2つを柱とした「健幸(けんこう)」を目指しており、子育て、健康づくり、市民交流の機能を持つ、取手ウェルネスプラザにおいて「市民の健康づくりの推進」と「中心市街地の持続可能な活性化」に取り組んでいる。

加えて、起業・創業の促進による地域の活性化を図るため、小さな起業が街にあふれ、みんなが起業を応援する、一人ひとりの個性が尊重され個性豊かに生活する街「起業家タウン取手」の実現に向けて、各種創業支援等事業に取り組んでいる。取手駅前の商業ビル内に創業支援の拠点となるレンタルオフィスを開設し、さらに開業の仕方から経営ノウハウまで必要な実務が学べる「創業スクール」や地域密着・市民参加型の「ビジネスプランコンテスト」を開催している。

除染措置を終えた取手市では、今後もアートを含めさまざまな分野での絶妙な魅力や、都市環境と自然環境のほどよさなどをアピールしていくため、「ほどよく絶妙とりで」をブランドメッセージとして、市の魅力を発信していく。

「スマートウェルネスとりで」を象徴する施設「取手ウェルネスプラザ」。400人規模の多目的ホールをはじめ、
トレーニングジムやキッズプレイルームを備え、市民の健康づくりと幸せづくりに貢献している。

取手駅前の商業ビル「リボンとりで」5階に開設したレンタルオフィス「Match-hako」。取手で起業・開業する人を応援し、起業で取手市を元気にすることを目指すプロジェクト「ワタシの街の起業支援 Match」の拠点となっている。

たいけん美じゅつ場VIVA(取手駅ビル「アトレ取手」4階)さまざまな過ごし方ができる、駅に直結したまちなかの居場所。その一角で、アートを通していろいろな世界や人のふれあいを体験することができる機能をあわせ持つ。

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