「Fukushima Today」について
福島県は、国・市町村が計画・実施してきた除染がほぼ完了という段階に達しています。しかし、こうした福島の環境の回復・再生の進展や成果について、海外ではまだ多くの無理解や誤解が存在しています。このような状況をふまえ、海外向けTV番組「Fukushima Today」の企画や取組に賛同し、番組の制作、海外での放送の実現に環境省も協力しました。
「Fukushima Today」は、東南アジア全域における日本関心層に向け、福島の環境の再生した様を広く紹介するドキュメンタリースタイルの15分番組をCNBC ASIAの“Channel Japan”の中のコーナーとして放送しています。
番組の主役として、環境回復・復興が進む福島の今を伝えるさまざまな分野のキーパーソンを設定。それぞれキーパーソンにふさわしいテーマにもとづく福島の現況や魅力を取り上げ、4回シリーズの番組として構成しています。
この番組について
東日本大震災そして福島第一原子力発電所の事故による影響で、福島県は経済の失速や人口減少など、負のスパイラルに陥っています。そこで、福島県が力を入れているのが、医療や再生可能エネルギー、そしてロボット分野などを中心とした産業振興です。
もとより福島県は、工業製品出荷額が東北6県中1位を保っており、新興国を中心に成長が見込まれている医療機器の出荷額は震災前の1.4倍に増え、2014年には全国第3位に躍進しました。自動車部品製造等の下請け企業として長年培った技術が、次代を担う技術開発に生かされているのです。その技術を使って自社製品を開発する動きも目立ってきています。
この番組『ロボットで地域振興』編では、株式会社タカワ精密(本社:福島県南相馬市)、そして株式会社菊池製作所(本社:東京都八王子市)の福島の工場の取組みを紹介します。
タカワ精密の渡邉光貴(わたなべ こうき)取締役は、ロボット産業への進出を目指して、災害時にダイバーが入れない場所での捜索を想定した水中探査用ロボットの試作機を作っています。この渡辺さんの取組みは、2017年1月の第193回国会での首相施政方針演説でも取り上げられました。
一方の菊池製作所は、震災後の2015年に南相馬市小高区で新規工場の操業を開始しました。福島県飯舘村の出身の創業者・菊池功(きくち いさお)社長が、震災や福島第一原子力発電所の事故による逆境にふるさとで頑張る人たちと共に果敢に挑戦しようと工場の新設に踏み切り、歩行補助ロボットなど、医療・介護分野のロボット開発に取り組んでいます。
第3話目となるこの番組では、福島再生の原動力となる産業振興の観点から、特に町工場の技術開発に注目し、タカワ精密の渡辺光貴さん、そして菊池製作所で働く保良侑奈(やすら ゆうな)さんにスポットをあて、「福島の最先端技術」をフューチャーするとともに、イノベーション・コースト構想など、産業振興を推進している福島県の姿を紹介します。
放送日:
【初回放送】12月24日(日)、【再放送】12月24日(日)
放送国(地域):
東南アジア、東アジアを中心に、CNBC ASIAが放送を行っている以下の18の国・地域。
インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、
タイ、ミャンマー、中国、日本、台湾、韓国、香港、マカオ、パプアニューギニア、
サイパン/グアム、スリランカ
放送世帯数:
17,970,010(※ホテル客室数 298,632含む)
この番組の二次利用には著作権者の判断が必要です(お問い合わせ等は環境省へ)。
担当:環境省 環境再生事業担当参事官付 福島再生・未来志向プロジェクト推進室
※尚、個人の方は受け付けておりません。
番組内容
今回の舞台は、福島県の浜通り地方の北部、太平洋に面した南相馬市です。
南相馬市は、2006年、旧小高町、旧鹿島町、旧原町市の1市2町が合併して誕生。東京からおよそ290キロメートル、福島第一原子力発電所からはおよそ10キロから30数キロ圏に位置しています。市の面積は約400平方キロメートル、人口はおよそ5万5千人です(2017年11月現在)。
市内の一部地域に出されていた避難指示は、この地区の除染終了後の2016年7月には解除され避難指示の無かった南相馬市の他の地区の除染もほぼ終了しています(2017年10月現在)。
タカワ精密:渡邉光貴さん
最初に紹介するのは、株式会社タカワ精密で開発担当取締役をつとめている渡邉光貴さん。
いま30代半ばの渡邉さんは、創業者である渡邉隆光(わたなべ たかみつ)社長のご子息で、大学卒業後、東京のIT会社に就職。震災の前の年に郷里の南相馬市にもどり、タカワ精密の取締役に就きました。
震災発生を目の当たりにした渡邊さんは、「この世の終わりとかと思ったぐらい、仕事を続けるとか以前の問題として、生きるか死ぬかというところでした」と語ります。
そして、震災からの復旧、復興というときに、「製造業というのは右肩上がりではないので、やはり新たな成長の柱がほしい。それがロボットの世界だった」と語っています。
こうして、会社が福島第一原子力発電所から30キロ圏内にあるという好立地をふまえ、廃炉に役立つロボットを作ることは「大きなビジネスチャンスじゃないか」と、水中探査用ロボットの開発をスタートさせました。
楢葉遠隔技術開発センター
福島県では、震災そして福島第一原子力発電所の事故によって失われた浜通りの産業・雇用を回復するため、●ロボット技術に関連する研究開発 ●エネルギー関連産業の集積 ●先端技術を活用した農林水産業の再生 ●未来を担う人材の育成強化 ●廃炉のための技術開発・・・などを通じて新たな産業・雇用を創出し、住民が安心して帰還し、働けるよう、浜通りの再生をはかる「福島イノベーション・コースト構想」を推進しています。
その中の拠点の一つが、「楢葉遠隔技術開発センター」(楢葉町)です。
楢葉遠隔技術開発センターは、福島第一原子力発電所の廃炉推進に向け、ロボットなどの遠隔操作機器の開発・実証試験を行う施設として、2016年に完成しました。
作業者の訓練を行うための最新のバーチャルリアリティシステム(VR技術)を備えた研究管理棟と、廃炉技術の実証試験や遠隔操作機器の開発実証試験を行うための試験棟から構成され、幅広い専門分野の研究者や技術者が集まり、精力的な研究開発が進められています。
試験棟には、福島第一原子力発電所と同じ形状の階段や、ドローンの試験装置などが設置されています。これらそして、装置の一つである高さ5.5メートルの大型水槽で、渡邊さんは水中探査用ロボットの試験を行います。
さまざまな企業・研究機関とのコラボレーション
極めて高い放射線が飛び交う原子炉内部で動作するロボットの開発には、数々の困難なハードルがあるのは言うまでもなく、渡邉さんの挑戦にはさまざまな企業や研究機関が参加、協力しています。
水槽試験で発生した通信・制御系のトラブルについては、福島県大玉村に事業所を持つ金属などの加工メーカーである株式会社三和製作所に相談し、新たな解決策を模索します。
ロボットの設計は、東北地方で最初の国立高等専門学校として1962年に設立された、地元の福島工業高等専門学校(福島県いわき市)の研究スタッフに依頼。
心臓部であるカメラは、宇宙線に強い光学機器の開発・製造を手がけるマッハコーポレーション株式会社(本社:神奈川県横浜市)、また国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構の量子ビーム科学研究の中核拠点である高崎量子応用研究所(所在:群馬県高崎市)と組んで、その開発や実験を行っています。
さらに、部品については試作部品や超精密部品加工を得意とする、地元の仲間の小浜製作所有限会社(本社:南相馬市)の力を得るなどしています。
菊池製作所:保良侑奈さん
南相馬市で生まれ育った保良侑奈さん(20歳)は、高校卒業後、地元に工場のある菊池製作所に就職し、ロボットの製造を担当しています。
菊池製作所の創業者・菊池功社長は、福島県飯舘村の出身。創業は、1970年。『総合ものづくり支援企業』を標榜し、開発・設計から金型の製作、試作、評価、量産に至るまで、さまざまな新製品開発をサポートしてきている企業です。
保有する11の工場のうち、本社のある八王子の3工場以外は、すべて福島県の飯舘村を中心に、川内村(かわうちむら)や南相馬市に立地しています。
保良さんが働く南相馬工場は、福島第一原子力発電所から約16キロメートルのところにあり、この地域は一時、避難指示区域になりました。しかし、除染終了後の2015年に、県内の8番目の工場として操業を開始しました。
東京理科大学 小林宏教授
保良さんが製造を担当しているのは、ウェアラブルロボットのマッスルスーツです。
このマッスルスーツは、モーターではなく、非常に強い力で収縮する空気圧式の人工筋肉を使っているため、滑らかに動くことが特徴で、人や物を持ち上げるときのからだへの負担を大幅に軽減します。
これを開発したのは、東京理科大学(葛飾キャンパス:東京都葛飾区)の小林宏教授。マッスルスーツは、東京理科大発祥ののベンチャー企業である株式会社イノフィスが開発したものです。
「小高でのマッスルスーツの製造が、地域の復興や振興に役立てばいいなと思っています」と、小林教授は語っています。
この工場では、これまでに3000台のマッスルスーツを生産しました。これを支えたのは、菊池製作所で働く地元の女性たちです。
保良さんは、「携われることを誇りに感じます」又、「楽しい」とも語っています。
ロボットテストフィールド
楢葉遠隔技術開発センターなどと並ぶ、福島イノベーション・コースト構想のもう一つの拠点は、「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市・浪江町)。
南相馬市の施設は、東西約1000メートル、南北約500メートルという、およそ50ヘクタールもの広さの敷地内に「無人航空機エリア」、「インフラ点検・災害エリア」。「水中・水上ロボットエリア」、「開発基盤エリア」が、また浪江町の施設にはドローンなどの長距離飛行試験のための滑走路が整備される計画で、2018年以降の順次開設をめざし、建設が進められています。
「これが車で10分くらいのところにあることで、開発スピードも上がるはず」と、大きな期待を寄せている渡邉さんは、「南相馬といったら『ロボットの町』とみんなが思うような南相馬を目指したい」と、夢と意欲をふくらませています。