「Fukushima Today」について
福島県は、国・市町村が計画・実施してきた除染がほぼ完了という段階に達しています。しかし、こうした福島の環境の回復・再生の進展や成果について、海外ではまだ多くの無理解や誤解が存在しています。このような状況をふまえ、海外向けTV番組「Fukushima Today」の企画や取組に賛同し、番組の制作、海外での放送の実現に環境省も協力しました。
「Fukushima Today」は、東南アジア全域における日本関心層に向け、福島の環境の再生した様を広く紹介するドキュメンタリースタイルの15分番組をCNBC ASIAの“Channel Japan”の中のコーナーとして放送しています。
番組の主役として、環境回復・復興が進む福島の今を伝えるさまざまな分野のキーパーソンを設定。それぞれキーパーソンにふさわしいテーマにもとづく福島の現況や魅力を取り上げ、4回シリーズの番組として構成しています。
この番組について
海外から学生を迎え、福島県内の被災地を見学するスタディ・ツアーが、東日本大震災の翌年の2012年6月から年2回のペースで行われています。仕掛け人は、国立大学法人福島大学 経済経営学類助教にして、国際交流センター国際プログラム担当をつとめるウィリアム・マクマイケルさん。
「福島アンバサダーズプログラム」と名づけられたこのスタディ・ツアーは、海外の学生に、10日間ほどかけて福島の正しい今の状況を持ち帰り、発信していく人材育成をテーマにした短期留学プログラムです。11回目となる今回のツアーは、8月15日~26日までの日程で開催され、21名の学生が参加しました。
来日した学生に、震災や原発事故が人々にどのような影響を与えたのか、また現在どういう状況なのか・・・など、福島の真の姿を隅々まで見てもらうとともに、今回は中間貯蔵施設や除去土壌再生利用の実証事業などの視察も実施。第1話目となるこの番組では、キーパーソンのマクマイケルさんを追いかけながらスタディ・ツアーに密着取材。来日した学生が何を見、何を感じ、どのように変化するかを探りました。
放送日:
【初回放送】11月19日(日)、【再放送】11月19日(日)
放送国(地域):
東南アジア、東アジアを中心に、CNBC ASIAが放送を行っている以下の18の国・地域。
インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、
タイ、ミャンマー、中国、日本、台湾、韓国、香港、マカオ、パプアニューギニア、
サイパン/グアム、スリランカ
放送世帯数:
17,970,010(※ホテル客室数 298,632含む)
この番組の二次利用には著作権者の判断が必要です(お問い合わせ等は環境省へ)。
担当:環境省 環境再生事業担当参事官付 福島再生・未来志向プロジェクト推進室
※尚、個人の方は受け付けておりません。
番組内容
仕掛け人のウィリアム・マクマイケルさん。父はカナダ人、母は日本人の、バンクーバー生まれ。
5歳のときから3年間、日本の徳島県で過ごし、その間に『武士道』の著者としても有名な新渡戸稲造を知り、「いつかは自分も日本と世界を結ぶ架け橋になりたい」と考えるようになりました。
2007年8月、日本の外務省が1987年から推進している国際交流事業JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)に参加し、来日。自治体国際化協会の交流員として、福島県に赴任し、県内各地を回り、活動しました。
そして、2010年9月、国立大学法人福島大学に、国際交流担当の特任専門員として着任されました。
福島県の県都・福島市にある福島大学は、日本の大学の中でも、最も熱心に東日本大震災に関する取組を行っている大学と言えるでしょう。大震災・原発事故直後の2011年4月には、被災者と被災地域の復旧・復興の支援を目的とする「うつくしまふくしま未来支援センター」を設立。また、2013年7月には「環境放射能研究所」を設立するなど、幅広い活動を展開しています。
この福島大学の経済経営学類助教 兼 国際交流センター 国際プログラム担当をつとめるマクマイケルさんは、東日本大震災直後から被災地での支援活動に関わり、特に海外での風評被害の払拭をテーマに、国内外で福島県の現状に関する積極的な情報発信活動を続けています。その柱の一つが、「福島アンバサダーズプログラム」です。
マクマイケルさんが主宰するスタディ・ツアー「福島アンバサダーズプログラム」。このきっかけの一つは、福島第1原子力発電所からおよそ60kmの距離にあり、震災発生後も大勢の市民が住み、暮らしを営んでいた福島市を“ゴーストトタウン”と呼ぶ、震災直後の海外の大手メディアによる、事実とは異なる報道でした。同様に、ネットでも、さまざまなデマが映像やコメントを通して拡散されていました。
マクマイケルさんは、震災や放射能の情報を翻訳してホームページに載せたり、福島原発の状況を心配する外国人からの電話に対応したりなどしたものの、カナダに住むマクマイケルさんの両親もただ心配するだけで、多くの人に共感は得られませんでした。そこで、海外の人たちに実際に福島に来てもらい、自分の目で確かめてもらうことが大事だと考えました。
震災が発生した2011年中にスタートさせたかった「福島アンバサダーズプログラム」の第1回目が実現したのは、2012年6月。その大きな理由は、アメリカ政府が福島第1原子力発電所から80km圏内にいるアメリカ人に対して出していた避難勧告の解除(2012年2月)を待たなければならなかったことにあります。
当初はアメリカの大学の学生を招いていましたが、その後、韓国、中国、ドイツなどからの大学生も参加するようになり、これまで120名余りの学生が福島を訪れています。
そして今回は、世界5カ国の大学から新たに21人の外国人大学生が参加しました。
「回を重ねるごとに学生の目的意識が高くなっている」と、マクマイケルさんは語っています。
8月15日、学生たちは福島市に集合しました。
福島大学でのオリエンテーリングを皮切りに、10日間の福島スタディ・ツアーの始まりです。
最初に話を伺ったのは、福島県の被災地で医療に携わってきた医師で医学博士の越智小枝(おち さえ)さん。
越智さんは、東日本大震災をきっかけに、2013年から被災地の福島県相馬市の相馬中央病院に勤務。現在は東京に拠点を移し、相馬市に通いながら、市民の放射能への不安を解消する活動を続けています。
越智さんは「人々の健康に関して、福島では、放射線による直接的な影響によるものではない、精神的・身体的な健康問題の方がはるかに深刻な問題となっています。それには、たとえば、高齢者にとっての、避難先の仮設住宅での不自由な生活、ライフスタイルや食生活の変化などによるストレス、あるいは毎日やっていた農作業ができなくなったことによる運動不足などが挙げられます。」と原状を説明しました。
福島市にある「環境再生プラザ」。
ここは、環境省と福島県が共同で運営している施設で、パネルや模型展示、専門スタッフによる解説や相談、市町村や町内会、教育者などが自分で語り、授業ができるようにするためのプログラムでの専門家派遣、また様々な地域やイベントでの移動展示など、地域との交流やコミュニケーションを通じて、福島の環境回復の歩みや放射線、中間貯蔵施設などの環境再生に関する情報を発信している拠点です。
この施設は、2012年「除染情報プラザ」として開設され、それまで人々にとって耳馴染みのない「放射線」や、聞いたこともない「シーベルト」「ベクレル」などの言葉、あるいは「除染」などについての情報発信を行い、国と自治体が進める除染事業に関する福島の人々の理解の促進・啓発活動を展開してきました。
そして、2017年3月に県内の除染がほぼ完了したことを受け、これからの福島の環境再生に向け、「環境再生プラザ」と名を改めました。
学生たちは、「福島県農業総合センター」を訪れ、福島県で生産される農産物が今どのように管理されているのか、その現場を見学しました。
ここは、農業に関する技術開発機能を核として、安全・安心な農業を推進する機能、農業教育機能を兼ね備えた福島県の農業振興の拠点です。
福島県は、県内で収穫されたすべての米を対象とする放射性物質のスクリーニング検査を実施しています。
福島県は、震災の翌年の2012年からこの検査制度を導入。福島で収穫された米は、すべて検査され、基準値をクリアしものだけが出荷されています。
米などの食品中の放射性物質の日本での出荷可能な基準値は1kgあたり100ベクレルで、EUの1,250ベクレル、アメリカの1,200ベクレルよりはるかに厳しいものとなっています。
2016年は基準値を超える米はひとつもありませんでした。米以外の農産物についても検査体制を整えています。
その後、地元で農業を営む方々との交流や、有機野菜の収穫体験を通して、学生たちは農家の方々から直接、安全と安心を保証するためのこれまでの多大な努力や、風評被害の実態、そして福島の農産品のすばらしさを教えてもらいます。
次に、学生たちは、福島県の太平洋沿岸地域に移動します。津波で大きな被害を受けた相馬市。
そこで、震災前の風景や地域の伝統的な催しの写真、震災当日の映像記録などを展示している「伝承鎮魂祈念館」を訪れました。そして、津波で行方不明のままとなっている父と息子の遺骨を、今も探しつづけている被災者のもとを訪ね震災後の思いや考え方の話に耳を傾けました。相馬市から南下し、いよいよ、福島第1原子力発電所の視察です。
かつては全面マスクと防護服の着用が必要だった第1原発の構内ですが、現在は敷地全体の95%でマスクと一般作業服で入ることができるようになっています。
バスの車内から視察する学生たちは、マスクも必要もありません。
整然とした第1原発の構内、伝えられている事故のあった現場とは思えない現状や作業員の服装が軽装になっている事に学生たちも驚愕した様子です。
福島第1原子力発電所(オンサイト)での取組の一方で、放射性物質が拡散した地域(オフサイト)で進められてきたのが除染の取組です。
除染は、放射性物質による人々健康や生活環境への影響の低減を目的とするもので、建物や道路を洗浄し、表面の土や枯れ草を剥ぎ取って集めるという地道な作業です。
除染で取り除かれた土壌などは、約1トンの容量を持つ袋で、およそ2,200万袋という膨大な量に及ぶ見込みです。
2017年3月で、国・市町村による計画除染がほぼ終了し、国が特定の地域を指定して出していた避難指示も一部の地域を残し、解除されました。「帰還困難区域」として避難指示が継続されている地域は、福島県の面積(13,784平方キロ)の3%弱の面積となっています。
こうして、放射線量の低減とともに環境再生が進むオフサイトでの取組は、除染で取り除いた土壌などの集中管理、そして処分という段階に移行してきています。
学生たちは、そうした土壌などを最終処分するまでの間、一時的に管理・保管を行う中間貯蔵施設を視察しました。
ここは、福島第1原子力発電所を取り囲む形の敷地、約1,600haの広さを予定しており、各種施設の建設が進められています。
一方、中間貯蔵に関連し、南相馬市で進められている、除染土壌を再生利用するための実証事業の現場も、学生たちは訪れました。これは、国と南相馬市が協力し、除染で出た土を再利用して、有効に活用するとともに、土壌などの最終処分量を減らそうという取組です。
最終日、福島大学にもどった学生たちは、どのように福島の姿を世界に伝えるかをテーマにワークショップに参加しました。
福島の姿を自らの目で確かめてきた学生たちからは、どのようなアイデアが生まれるのでしょうか。
最後にマクマイケルさんは、「学生たちは最終日のワークショップで、帰国後に福島の今をどのように伝えるか、独創的な方法を考え出していました。その方法に一つの正しい答えはありません。今回、FAPに参加した積極的な学生たちは、福島の現実を世界に伝える大きな役割を果たしてくれるはずです。」と語りました。