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茨城県利根町のレポート

令和4年11月更新

茨城県利根町について

利根町は、茨城県の最南端、都心から40キロ圏内に位置する人口約1万5,000人の町。その名のとおり「利根川」とともに歩んできた水辺の町で、町の南には雄大な利根川が、ほぼ中央には新利根川が流れる。南は千葉県我孫子市、印西市に接し、北は茨城県龍ケ崎市、東は河内町、西は取手市に接している。東西8.3キロメートル、南北5.2キロメートルの町域は常総台地の末端にかかってはいるが、利根川、小貝川流域の沖積低地で、ほとんどが平坦な地形に肥沃な水田が広がっている。

現在、役場など行政や商業の中心となっている布川地区は、江戸時代に水戸街道の脇往環路の宿場町として、また、利根川舟運の河港として栄えた集落でもある。昭和30年に1町3か村が合併して利根町として発足した。

除染実施計画に基づく除染措置完了
平成25年3月

町内には歴史・文化的に貴重な財産もある。関東最古の水神様とされる「蛟(こう)もう神社」では、旧暦の9月14日の夜に、今も古式にのっとった神事が執り行われる。また、民俗学の父といわれ、「遠野物語」などで知られる柳田國男は、明治20年の初秋、布川で開業医をしていた長兄に身を寄せ、多感な少年期を利根町で過ごした。このときの体験が、後に民俗学を志すきっかけとなったといわれ、利根町は柳田國男の「第二の故郷」と位置付けられている。

写真(蛟もう神社)

約2300年前(紀元前288年)に現在の門の宮の場所に水の神様の罔象女大神を祀ったのが始まりといわる「蛟もう神社」。
旧暦の9月14日の夜に、今も古式にのっとった神事が執り行われる。

写真(柳田國男記念公苑)

柳田國男が少年期を過ごした「小川家」を復元した「柳田國男記念公苑」。
國男が書物を乱読した小川の土蔵が当時のまま残される貴重な資料館だ。

部署横断的な協力体制を構築。
子どもたちの安全を最優先に除染を開始。

平成23年8月に行われた文部科学省による航空機モニタリング調査において、利根町の一部で空間線量率が毎時0.23µSv*を超えている地域が確認され、同年12月28日に放射性物質汚染対処特措法による「汚染状況重点調査地域」として指定を受けた。
*µSv…マイクロシーベルト

そこで町では平成24年1月、放射線に関する情報収集、関係機関との連絡調整など、放射線対策に向けた計画の策定を目的とした「利根町放射線対策本部」を設置。本部長には町長、副本部長には教育長があたり、対策本部の下部組織として、環境対策課を中心に総務課、企画財政課、都市建設課、学校教育課、福祉課、経済課の7つの部署による横断的な部会が設けられ、町内の空間線量率の調査や住民への対応など、さまざまな対策に奔走した。

平成24年5月には「利根町除染実施計画」を策定し、特措法の基本方針に従って、平成26年3月までに、小中学校や公園など、子ども関連施設を中心に除染を行うことを定めた。除染対象になった施設は、空間線量率の調査に基づき、施設内の測定結果の平均が毎時0.23µSv以上だった小中学校4校と公園が13カ所、さらに県の施設である霞ヶ浦流域下水道事務所利根浄化センターである。

除染は平成24年12月から平成25年3月にかけて行われた。対象となった施設では、敷地の表土を除去し、汚染されていない土で被覆した。芝生が張られていた公園では、被覆した上に新たな芝生を植えて現状回復を図り、さらに枝葉の剪定なども行った。

平成25年3月にはすべての除染が終了。その後も、除染前のモニタリングで除染不要とした施設を含め、除染実施計画の対象施設や町内各公共施設などの空間線量率測定を定期的に実施している。測定結果は全ての場所で毎時0.23µSv未満となっており、その測定値は年々減少傾向にある。現在も小中学校、幼稚園、保育園、公園、その他公共施設などや除去土壌保管場所、町内全行政区で定期的に空間線量率を測定しており、その結果はホームページなどで公表されている。

写真(もえぎ野台自然公園)

子どもたちの安全性を考え、小中学校や公園などの除染が優先的に行われた。
写真は除染を終えた「もえぎ野台自然公園」。

リスクコミュニケーションの一環として講演会を開催。
住民自ら測定することが不安の軽減につながる。

震災後間もなくは、町民から電話が殺到して、健康不安を訴える声が相次いだ。そこで平成23年8月、筑波大学アイソトープ総合センターの松本宏センター長(当時)を講師に招き、「放射性物質拡散の現状と放射線の人体影響」をテーマに、放射線に関する正しい基礎知識を伝える講演会を開催した。とくに子どもへの影響に大きな不安を抱える子育て世代の女性などを中心に、300名近い町民の参加があった。

平成23年から小型で持ち運び可能な放射線測定器の貸し出しを実施。各小中学校に1台ずつ貸与し、さらに、自宅やその周辺の測定を希望する住民にも貸し出しを行っている。住民のなかには、個人で購入した測定器の値を確認するために役所の測定器を利用する人もあり、慎重を期す姿勢も見られた。自身で測定することが安全だけでなく安心につながった。

食への安心・安全に万全の配慮。
食品放射能測定の受付は現在も継続。

水田地帯が広がる利根町の特産物といえば「米」である。利根川水系の自然の恵みを生かした利根町産のコシヒカリは、良質米だけを限定したJA竜ケ崎利根農産物直売所オリジナルブレンド「とねの舞」として人気がある。利根町で生産された平成23年産の米は、旧町村単位での放射性物質検査を実施し、全てにおいて「不検出」との結果が出た。幸い目立った風評被害はなかったが、これを基に安全宣言を行うとともに、米作付け農家だけでなく、全町民に対しても広報紙や回覧を通じて安全性を伝え、さらに農産物直売所でもその結果を掲示した。

また、平成23年10月に食品放射能測定システムを購入し、希望する住民には食品検査を行ってきた。産業としての農産物は圧倒的に米が中心だが、家庭用に野菜類を栽培する家庭も多い。その安全性を確かめたいとのニーズがあったためだ。食品検査は現在も希望に応じて役所で随時受け付け、検査を行っている。

除染を完了した利根町では、今後も放射線量の定期的なモニタリングを続け、住民の安心・安全の確保に継続的に努めるとともに、魅力ある自然豊かな地域づくりを目指す姿勢だ。

写真(町の特産品「とねの舞」)

利根川水系の恵みを生かしたオリジナルブレンド「とねの舞」。
良質米だけを厳選した人気の特産品。

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