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パート1 第10回 『1年で受ける放射線量はどれくらい?』

第10回

「1年で受ける放射線量はどれくらい?」について なすびの解説

最終回の今回。
第1回でも訪れた伊達市に再びお邪魔して、原発事故後、1年間で受ける放射線量について学びました。
一般的によく耳にする数値は、年間1ミリシーベルト。
「年間追加被ばく線量」という用語や、「年間1ミリシーベルト」という値ですが、私はこの約2ヶ月半で、専門家の方から教えて頂き、自分でも積極的に情報収集しましたので、多少詳しくはなりつつも、あくまで漠然とした認識にすぎないのが正直なところです。福島県民の皆さんでも、まだまだ聞き慣れない、違和感を覚えることも否めないんじゃないかと思います。

そんな中、伊達市では、全市民の方にガラスバッジを配布して、生活習慣が異なる市民一人一人の、1年間の外部被ばく量のデータを取りまとめたとのことでした。

ガラスバッジを使って、今回把握出来たデータを参考にしつつも、今後も希望者にはガラスバッジを配布するとのことで、引き続き、市民の皆さんからデータを収集し、管理をつづけていくそうです。
数値は認識出来ていても、実際に目に見えたり、触れたり感じたり出来るモノではない放射線。
どうしても心配ばかりが先に立ってしまうのもやむを得ません。
でも、ちゃんと実態を把握して、それにきちんと対応していくことは大切だと思います。

放射能や放射性物質、ベクレルやシーベルトなど、原発事故後に、福島県内では様々な聞き慣れない用語が沢山飛び交っていて、県民全員が一様に、正しく理解することは甚だ困難に違いありません。
それでも、まずは、官民一体で今の福島の実状を把握するという取組を積極的に行うことで、メンタル面でのケアにも役立てられて、心身共に健やかな福島を取り戻すことに繋がればと思いました。

ふくしまへの想い出演者紹介

  • 広野町
    除染対策グループ
    松本正人さん

    松本正人さんの写真

    震災以降、除染対策グループのリーダーとして、町の復興と除染に尽力している。

「ふくしまへの想い」を見る

今回番組に登場した用語解説

追加被ばく量(追加被ばく線量)
自然界にもともとあった放射線に加えて、今回の原発事故により放出された放射性物質により追加された放射線による被ばく量を「追加被ばく線量」という。除染により、この追加被ばく線量をできる限り少なくしていく。年間追加被ばく線量を、長期間かけて自然のレベルに近づけていくという考え方が、除染の長期的な目標である。
追加被ばく線量についての補足はこちらをご覧ください。
放射線量
自然界にもともとある放射線や、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質による放射線を合計した量の意味となる。
ガラスバッジ(個人線量計)
個人線量計の一種。これまでに受けた被ばく量(積算線量)を図る測定器で、測定器の中にあるガラスが受けた放射線の量を計る。
空間線量率
空間線量とは、空間における放射線の量(強さ)で、一般に大気、大地からのガンマ線、宇宙線等が含まれる。単位時間当りの線量を線量率という。
空間線量率についての補足はこちらをご覧ください。

第10回収録を終えてなすびの「さらなるギモン」とその回答

ギモン

伊達市のガラスバッジを使った調査。
地域別にみた数値の高い場所(Aエリア)での小学生の一例で、年間の追加被ばく量は0.8ミリシーベルト。
でも、そもそも、年間追加被ばく量が1ミリシーベルトを超えてしまうことが、健康にどういう影響があるのか?が、まだまだ分かりません。
年間追加被ばく量が1ミリシーベルトを超えている、あと0.1や0.2ミリシーベルトで1ミリシーベルトに達してしまうから不安と思っている方々は、この数値をどのようにとらえ、考えれば良いのでしょうか?

除染情報プラザ(現 環境再生プラザ) アドバイザー青木さん

政府が除染の長期目標としてその達成を目指している、年間の追加被ばく線量1ミリシーベルトという数値は、国際放射線防護委員会という国際的組織が、通常時の公衆すなわち一般の人々の人為的な放射線による追加被ばく線量の管理目標として提言した1990年勧告に依拠したものです。当該委員会の考え方は、『私たちが毎年受けている自然からの放射線量は、場所ごとに差異の大きい屋内空気中のラドンガスからのものを除くと、概ね年間1ミリシーベルトから、標高が高い場所では、宇宙線による被ばく量が大きい、地質条件によって大地からの被ばく量が大きい、などの理由で、少なくともその2倍に達する。このことから年間1ミリシーベルトを提言する。』というものです。要するに、私たち人類が暮らしているさまざまな場所の年間追加被ばく線量には少なくとも1ミリシーベルトの差異がある。少なくとも1ミリシーベルトですから、それ以上の差異もあります。そのような状況下で、私たち人類は永年の間、世代を受け継いで生活してきているのですが、その放射線の差異による私たちの健康への影響について、確認や報告はされていません。このことから人為的な放射線による年間追加被ばく線量の限度を1ミリシーベルトとしても、社会的にみて妥当だと看做されるであろうという考え方なのです。

また、人為的な放射線被ばくによる実際の健康影響についての研究も長年行われてきています。特に重要なのが、広島と長崎の原爆による被爆者の方々の追跡調査で、その結果、科学的事実として広く認められているのが、原爆の爆発の際に一気に1000ミリシーベルトを被ばくした方々の生涯のがん死亡率の増大が10%であるという事実です。
これは、一気に被ばくする急性被ばくに関する事実ですが、今の福島で暮らす私たちが受けているのは急性被ばくではなく、日々被ばくを受け続ける慢性の被ばくです。この慢性被ばくの場合の健康影響を、急性被ばくの場合と比較する研究も行われてきており、その結果、慢性被ばくの場合の影響はがんの発生臓器によって、急性被ばくの2分の1から10分の1にまで軽減されることが、これも科学的に確認されています。
以上のことから、慢性的な追加的放射線被ばくによる健康影響について、現在、国際的に以下のような理解が広く受け入れられています。それは、年間累積1000ミリシーベルトの追加的被ばくによる生涯がん死亡率の増大は急性の場合の半分の5%であると考えられること。0から1000ミリシーベルトまでの間は直線比例すると仮定して、1ミリシーベルトの場合の生涯がん死亡率の増大は5%の1000分の1の0.005%であると仮定されるというものです。実際には、この0.005%のがん死亡率の増大という数値は小さ過ぎて、喫煙や飲酒、運動不足や野菜不足など他の要因からの影響に隠れてしまい確認することは困難です。

さらに、この仮定とは別に、実際に自然放射線の量が他の地域と比較して大幅に高い高自然放射線地域での住民の方々の健康影響調査も行われています。例えば、インドのケララ州、カルナガパリ地区では1990年から大規模な調査が行われています。この地区は大地からの放射線量が高いエリアで、住民の方々を、年間の被ばく線量が、0~1ミリシーベルト、1~2ミリシーベルト、2~5ミリシーベルト、5~10ミリシーベルト、10ミリシーベルト以上の5つのグループに分けて、がんの発症率(死亡率ではありません)の差を調査していますが、2005年までに調査結果が確定した7万人弱の方々のデータからは、年間被ばく線量の増大によるがん発症率の増大は確認されていません。
広島、長崎の被爆者の方々の調査結果でも、被ばく時の線量が100ミリシーベルト以下であった方々の生涯がん死亡率の増大は確認されていませんので、多くの科学者、専門家は急性の100ミリシーベルト被ばくであっても、慢性の年間100ミリシーベルトの被ばくであっても、目に見える形での健康影響は生じないと考えられています。

これに基いて前述の国際放射線防護委員会は、今回の福島第一原子力発電所事故等の際の避難指示の基準値として各国政府に、年間の想定累積被ばく線量20ミリから100ミリの間の数値から選択するように勧告しています。言い換えれば、国際放射線防護委員会としては、年間累積被ばく線量が100ミリまでであれば避難しなくとも健康影響は生じないと考えているということです。日本政府は、避難指示の際の基準値として、この勧告中の最も低い安全側の20ミリシーベルトを採用しました。

長くなりましたが、科学的根拠に基いた世界的に広く認知された考え方をもとに、明日の福島のため、今日という日々を前向きに暮らしていってください。

よくわかりました。青木さんありがとうございました!

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